静岡県湖西市が、令和5年度重点施策において停電時に医療機器に使用できるリチウムイオン蓄電池の配備を発表した。在宅療養者への電力供給を目的とした全国初の取り組みで、SDGsの基本となる”誰一人取り残さない”という理念の実現へ前進している。
自宅で人工呼吸器や酸素濃縮器を使用する在宅患者にとって、電源の喪失は生命にかかわる深刻な事態である。災害による停電の可能性に加え、2022年はエネルギー危機・電力ひっ迫により日本の電力インフラの不安定さが改めて実感されるところとなった。医療機器のための予備電源の確保は必須である。
湖西市地域福祉課でも、在宅患者や医療的ケア児者への停電時の支援に大きな必要性を感じていた。
きっかけはとある新聞記事で、医療機器を使用する在宅患者がいかに停電に不安を覚えているか改めて知った事である。台風襲来時、自宅で17時間の停電を経験した難病の男性は「自分の身は自分で守るしかないと痛感した」と語っていた。
在宅患者は停電時の予備電源を自分で備えなければならない。しかし、入手性の良い一般蓄電池やポータブル発電機のほとんどは電磁波や漏れ電流の危険性を理由に生命維持装置への接続を禁止しているため、これらの製品の使用はあくまで自己責任とされる。医療機器への動作保証のない予備電源に頼るほかないとは、社会福祉を担う部署として看過できない状況であった。
そこで湖西市は、福祉避難所での在宅患者等受入れ体制の拡充を図るべく、医療機器に対応可能な蓄電池の導入を決定した。福祉避難所へ蓄電池を配備する、または患者の避難が難しい場合には停電した個人宅へ蓄電池を貸し出す事によって安定した電力供給を行うシステムの構築を進めている。停電が長期に及ぶ場合には蓄電池への給電が必要だが、EV車の外部給電機能で対応していく予定だ。通電している地域で充電したEV車を現地へ送り、蓄電池へ給電する事で長時間の医療ケアが可能となる。湖西市は「ゼロカーボンシティ」宣言によって行政におけるゼロカーボン化を推進しており、その一環として現在トヨタ社EV車C+pod(シーポッド)を所有している。
さらに市では、在宅の難病患者・人工呼吸器使用者の中で希望者を避難行動要支援者名簿に掲載し、災害時の状況の把握および速やかな支援に繋げる取り組みを始めた。蓄電池は現時点では要支援者対策班の拠点に2台導入済みだが、将来的には市内各地区にある公共施設5ヶ所に配備し、どの地域で停電が発生しても迅速に対応できる体制を整えたいと考えている。
なお、医療機器への接続において、先に挙げたような安全性の不安があってはならない。そこで採用されたのが株式会社ナユタ(本社:浜松市、代表取締役:杉山雅彦)が2021年に発売したリチウムイオン蓄電池【LEMURIA(レムリア)ME3000】。医療機器規格を取得し、生命維持装置への接続を公的に認められている国内唯一の蓄電池である。1台で人工呼吸器(100W)を約33時間運転可能な電池容量を有し、可搬式のため避難所においても患者のパーソナルスペースを確保する事ができる。
SDGs17の目標の一つ”11.持続可能な都市”のテーマは『包摂的で安全かつ強靱(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現する』である。天災は避けられないものではあるが被害を最小限に抑える為に、要配慮者の目線でまちづくりを行う事が市政には求められている。今回の湖西市の施策は、在宅患者の不安を少なからず緩和させるものであろう。
外部リンク「静岡新聞ー医療機器用蓄電池 湖西市が2台導入 停電時の生命維持に備え」
「中日新聞ー医療機器に使える蓄電池 湖西市、全国自治体で初導入」
「毎日新聞ー医療機器蓄電池 湖西市2台導入 災害時に生命維持へ /静岡」