練馬区の医療的ケア児支援 全国初、区立保育園へ医療機器対応蓄電池導入

令和6年7月、東京都練馬区において、区立保育園に医療機器用の蓄電池が配備された。医療的ケア児を受け入れる施設では不可欠となる停電対策だが、保育園へ医療機器用蓄電池を導入した自治体は全国初となる。利用者の安全を最優先に考えた練馬区の取り組みを紹介したい。

子育て支援が充実した地域として知られ、日経X(クロス)woman/日本経済新聞社 「共働き子育てしやすい街ランキング」(23年12月15日発表)にもランクインしている練馬区は、医療的ケア児支援においても他の自治体に先駆けた取り組みを行っている。約60か所ある区立保育園のうち8園が医療的ケア児受入指定園となっており、その全てに医療機器用蓄電池を1台ずつ配置した。

この背景には令和3年に公布された「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律(医ケア児法)」がある。

「医療的ケア児」とは日常的に人工呼吸器や胃ろう等を使用し、たんの吸引や経管栄養などの医療的管理が必要な児童のことである。現在全国に約2万人いると推測されるが医学の進歩によってその数は年々増加しており、15年前と比較すると約2倍となっている。

医ケア児法はそのような児童に対する行政の支援の在り方を位置づけた法律である。第三条に「医療的ケア児及びその家族に対する支援は、医療的ケア児が医療的ケア児でない児童と共に教育を受けられるよう最大限に配慮しつつ適切に(中略)切れ目なく行われなければならない。」と記されており、インクルーシブ教育の理念を反映した内容となっている。保育施設や教育機関へ通う医療的ケア児に対して、可能な限りの支援が求められる。

そこで課題となるのが医療機器使用に向けた電源環境の整備である。 医療機器を使用するにあたっては、災害時の長期停電のみならず近年頻発する雷雨その他に起因する瞬間的な停電、商用電源に干渉するノイズ対策も考慮する必要がある。 多くの自治体では防災用のポータブル発電機・一般蓄電池等を所有しているが、これらのほとんどが基本的に人身に関わる医療機器への接続は禁止されている。医療機器への動作保証はなく、予備電源の不具合が原因で不測の事態に陥ったとしても使用者の「自己責任」であると了承しなければならない。在宅療養者は当人や家族が納得した上でそのような予備電源を使用するケースも少なくない。しかし公的施設においては選定する者は「公共団体」、使用する者は「住民」であるため、自己責任での使用とは言えない。

練馬区保育課は精密医療機器に対応可能な蓄電池として、株式会社ナユタ(本社:静岡県 浜松市、代表取締役:杉山雅彦)より2021年にリリースされた医療機器用リチウム蓄電装置【LEMURIA(レムリア)ME3000】を採用した。医療機器規格を取得し、国内で唯一、生命維持装置への接続が公的に認められている蓄電池である。3300whの電池容量を持ち、1台で人工呼吸器(100W)約33時間の連続運転が可能となっている。

製品の特徴として、通常の電化製品に必ずある「外気口」がない点が挙げられる。 高熱は部品の故障や劣化の原因となるため、電化製品は外気口から冷気を取り入れ、熱を発散させる必要がある。しかし【LEMURIA】はナユタ社の技術と最新素子を用いてエネルギー変換率を高めることで熱の発生を抑え、外気口の撤去を実現した。これにより外気口から塵埃・消毒液等の異物が筐体内部へ混入するリスクが無くなり、保守性の向上と故障の低減に繋がっている。

児童福祉法に「医療的ケア」が明記されたのは平成28年だが、練馬区ではその前年から区立小学校・学童クラブでの医療的ケア児受け入れと重症心身障害児(者)の在宅レスパイト事業を始めるなど、医療的ケア児支援に先進的に取り組んできた。昨年度には「練馬区保育園・幼稚園・小中学校・学童クラブにおける医療的ケア児支援方針」を策定し、保育士や教職員への意識啓発・実技研修の実施、相談支援体制の強化や支援連携会議(仮称)教育・子育て部会の設置等、更なる支援の拡充を図っている。

共生社会の形成は、現代社会において最も積極的に取り組むべき重要な課題と言われている。多様な子どもたちが等しく学べる環境づくりにおいて、今回医療機器用蓄電池がその一端を担うことができた。

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